2014年8月26日火曜日

魔法科LZ 第4回:めざせ!一番!!

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 魔法科高校の劣等生 LOST ZERO(以降、魔法科LZ)の制作ブログですが、今回は前回である第3回の続きからちょっとだけ脇道にそれさせていただいて映像表現の話をしようと思います。

 この魔法科LZ の仕事を受けることになり、ゲームの映像をどうしていこうかと話していく中でアートディレクターとミーティングする度に出た言葉があります。それはズバリ、

 「アニメに勝ちたい…!」

 という野望です。そもそも原作のアニメ化と連動する形で始まった魔法科LZのゲーム企画であったので、アニメのビジュアルとゲームのビジュアルが比較されるのはまず間違いないことでした。そして、自分たちのゲームのビジュアルで魔法科のアニメと勝負したい、勝ちたいと考えたのです。

 とはいえ、映像表現でアニメーションに勝つといってもそう簡単ではありません。というか無理でしょう。ただ、100戦して100勝する必要はないと思っていました。なにか、ここぞ!という勝負できるような部分、負けていないと思える部分を確保したかったのです。スマフォゲームがアニメーションに映像表現で勝つという無謀な目標のため、ひとつずつ、映像表現のレベルアップを積み上げていくことになったのです。

 最初に取り組んだのはモデルです。これがゲームの映像表現の基本であるのは間違いありません。そしてキレイに作るだけではだめだと考えていました。キレイなだけでよいなら、2D の静止画をだせばいいのです。それなら簡単です。しかし、アニメに勝つためにどうしても高い演技レベルを維持した3Dアニメーションを確保したかったのですね。そのため、まだ日本のスマフォゲームではほとんど取り入れられてなかったモーフィングによる表情表現を取り入れたいと思いました。モーフィング自体はそんなに最新テクノロジでも何でもない技術なのですが、スマフォのゲームで取り入れているゲームは現在でもほとんどありません。

 もっとも、モーフィングを使わなくても表情を変えることは可能です。一番ポピュラーな方法はテクスチャーを変更してしまうこと。現在のほとんどのゲームがこの手法で表情を変化させています。まばたきに対応した目のテクスチャ、笑ったり、怒ったりしたときの口の形のテクスチャ等、いろんなテクスチャを用意して、それらを切り替えて表情を表現するのです。これは、これまでウチで制作してきたトロのモデルなどもそのような手法で表情表現していました。そうなんですニャ。これはトロだと問題ならない(というかかわいい)のですが、立体的な顔をもつキャラクターの場合、大胆なカメラワークを用いる様な演出を行うと、目や口が平面である事が露呈してしまいます。これでは、アニメに勝つどころか、映像としてかっこわるいものになってしまう結果になります。一方、モーフィングを使うことができれば立体的に頂点を変更できるので、カメラがぐいぐい変化しても変に見えてしまうことはありません。その分、表情モデルの制作の難易度があがってしまいますが、引き替えに高い表現力を獲得できます。高い映像表現のために演技力はとても大切だと考えていたのでモーフィングによる表情表現を持ち込むことは不可欠だったのです。

 プログラム的に、魔法科LZ では Unity3D というゲームエンジンを使用してゲームを作っています。Unity3D のバージョン 4.2 まではこのモーフィングに対応していませんでした。そのため、PolyMorpherという外部ライブラリを用いて何とかしようとしていたのですが、大きな欠点として「とても遅い」という事がありました。モーフィングには多くの頂点の計算が必要となるためネイティブコードで動作しないプラグインでは限界があったのです。どうしようかと悩んでいたところ、思わぬ幸運が巡ってきました。Unity3D のバージョン 4.3 からモーフィングに対応する BlendShape という機能を搭載するというニュースです!これは!!とおもい、4.3 のベータ版をなんとか試させてもらって、さっそく BlendShape を使用してみたところパフォーマンスは PolyMorpher の10倍程度、つまりモバイルでも全く使用して問題ないレベルでした。BlendShape 対応のため、データはすべて作り直しになってしまうとしても(デザイナーさんごめんなさい…)、乗り換えない選択肢はなかったので BlendShape への乗り換えを決断しました。そうして完成したのが、最終的なモデルになります。

 魔法科LZ のキャラクターモデルは、モーフィングを完全に取り入れたおかげで、彼女たちには閉じたり開けたり出来る「まぶた」があり、その下には自由に視線を動かすことが出来る「瞳」があります。そして自由に変形できる「口」もあります。自然な会話の演技もドンとこいです。当然、立体的にちゃんと穴が開いているので、どこから見ても立体的に破綻することがありません。こうして、非常に高い演技力をもったモデルが完成したのです。この高い演技力は先日公開されたムービーの中でも存分に来ていていますので、ぜひもう一度見ていただければと思います。


 ちなみに魔法科LZ のモデルデータは配布できませんが、 ユニティちゃんという、Unity社が無料で公開&配布しているかわいいキャラクターモデルがあります。ユニティちゃんの顔の作りも BlendShape による非常に似たような構造でしたのでモデリングに興味がある方は参考にされるとよいと思います。今後はきっと、モーフィングによるキャラクター表情表現がきっと一般化していくことになるのではないでしょうか。Unity3D ありがとう!!!

 さて、モデリングと平行して重要だと思ったのがエフェクトです。なんといっても魔法科LZでは、魔法バトルが繰り広げられますから、魔法の演出はとても重要だと考えました。そして、これも知るかぎり最高のものを魔法科LZには持ち込みたいと思ったのです。ただ、残念ながらウチの会社ではこれまで派手なエフェクトが必要とされるようなゲームをあまりつくってこなかったので(^_^;)、それほど自信がある分野ではかったのです。そこで、 BISHAMON という 3Dエフェクトツールを頼ることにしました。幸い、後藤さんという BISHAMON を販売されているマッチロックの方とはゲームジャム等で仲良くなっていたので、すぐに話をして、当時、また発売されていなかった Unity3D のプラグインとして動作する BISHAONを開発初期から特別に提供してもらい、開発を進める事ができました。その結果、魔法科LZ のほとんどのエフェクトはこの BISHAMON で作られているのです。後藤さん、ありがとう!!!

 さて、最高のモデルが完成し、カッコイイエフェクトもバンバン表示されるようになりました。ただ、それだけでは終わりではなかったのです。いよいよ本質的な演出の問題が顔をだしてきたのでした。

 魔法科LZ のバトルシーンでは必殺技を使うと、カードによって全画面を使ったカットインシーンが再生されます。ここが、なんといっても映像表現的な見せ場になるということで「アニメに勝ちたい!」とスタッフの思いが集結した場所になっていきました。しかし、いざ作り始めてみると、これがなかなか難しい。絵コンテではカッコイイと思えたようなカットでも、実際に映像になってみてみるとちょっとイマイチだったり、時間制限もあり、テンポが速過ぎたりとなかなか苦戦することになったのです。ぐぬぬ。そこで、ここでもクオリティアップのために社外にヘルプを求める事にしました。映像演出の専門家である林谷和樹さん、通称「ダニーさん」にカットイン ディレクターとして参加してもらうことにしたのです。さっそく合流後、ダニーさんには絵コンテの段階から、いろいろと相談に乗ってもらい、演出案を練ってもらいました。そして実際に一部、データもいじってもらって、みるみるカットインがかっこよくなっていったのです!そして繰り返して作っていく度に、社内のスタッフも勘所をつかんできたのか、カットインのレベルがみるみる上がっていきました。どんどん新しいカットイン、しかもカッコイイシーンがあがってきていた当初は本当に新作カットを観るのが楽しみでした(^^) 一応、ウチのアニメーターの名誉ために多少フォローをしておくと、初期の段階では仕様的にカメラワークに制限がかかっていたのでカッコイイカメラワークを使えず、演出が難しかったという事もありました。後半、それが取り除かれ、完全に自由になったのも大きかったかと。とはいえ、カットインがここまで超かっこよく仕上がったのは、ダニーさんの協力のおかげでした。ダニーさん、ありがとうございました!!

 こんなかんじで、考えうる最高のモデル、最高のエフェクト、最高の演出を魔法科LZ には、思う存分、注ぎ込めたと思っています。本当に、デザイナーはすばらしい仕事をしてくれました!!!

 みなさん、ぜひとも実機(iPhone か Android)で見てみてくださいね。あ、ムービーとかではなく、ちなみにすべてリアルタムレンダリングなので、出来るだけ性能のよい最近のスマフォがおすすめですヨ。


つづく

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